来 歴


夢の中でも


まだ一度も昇ったことのない
螺旋の階段を駆け上がって
白い尖塔から
視界の向こう側めがけて
まっしぐらに跳ぶ夢
円型の宇宙が
メリーゴーランドのように
あぶなっかしくまわり
またもう一回まわり
木の葉も舞わない
鳥も飛ばない天空を
寂しい音楽になって降りて行く夢
待ちかまえている大地
湧き起こる荘厳なオルガン曲
それがいつのまにか
閉会式のファンファーレに変わり
観覧席の群衆の波に
たちまちさらわれてしまう
試合がまだ終わらないうちに
忙しく手旗が振られる夢
ゴールの続きには雑木林
いちめんのアレチノギクを
走路の形に踏みしだいて
煉瓦の囲いの中へ
走り込む若い女の足首
セーフの線がそこで引かれ
別の新しい緑の風景が
他人のことばを峻拒している夢

死んだ猫を埋めた夜から
井戸を掘る夢は見なくなった
跳ぶ夢と走る夢の境目にいて
錆びたスコップを差し出すのは誰
せかされてばかりいる夢のあとで
私のことばはいつも震えて
浅い畝へ詩の種子をこぼすだけ
緑の夢とその次の夢を土に蒔く夢
夢の中の夢でも
ことばはせっせと耕している

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